2012年07月04日

夕暮れ時

 
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夕暮れ時、蔵の建ち並ぶ喜多方をぶらりと歩く。時計を見ると6時半は過ぎている。この時間になると、鬱陶しいくらい闊歩していた観光客も引け、町は静けさが支配しつつあった。

そろそろ宿に戻らなければと思いながらも、ある蔵造りの喫茶店の前で足を止めてしまった。どっしりとした蔵の扉は開け放たれ、暖簾が風に揺れていた。中から聞こえてきたのはアコースティックギターをつま弾く音。そして甘く切ない唄声。曲名はわからないけれど、人を惹きつけるやさしい歌詞の断片が暖簾越しにこぼれてくる。私は、しばし耳を澄まして聞き入っていた。

曲が終わるとマスターとおぼしき男性が「どうぞ、中へお入りになりませんか」と声をかけてきた。一瞬「えっ」と戸惑いつつも、足はごく自然に店の中へと進んでしまった。店内に他に客はなく私の貸し切りだった。

「さぁ、どうぞ」と店の中央のテーブルを案内されたが、出入り口に近い席の椅子を引く。店内は薄暗い照明。タバコと珈琲の入り混ざった香りが漂い、きっと多くのひとがこの香りに懐かしさと切なさを覚えながら、自分の人生を振り返る、そんな感慨にふけるのだろうと想像した・・・。私は人生を振り返る行為に臆病になっていたし、かと云って明るい未来を望むほどウブな気持ちも既に持ち合わせてはいなかった・・・。ただひたすら今この時間を見つめることに執着していた。

と、写真を撮りながら「うつわ」を舞台にした小説を書くとしたら、こんな書き出しかな、と勝手に想像していたのであった。三文小説家にもなれやしない(笑)
posted by 生出 at 22:45 | Comment(2) | 馴染みの店
この記事へのコメント
続きが読みたくなるくらいひきこまれましたよ、楽しみにしています
Posted by 風 at 2012年07月05日 18:28
風さん、こんばんは。どちらから吹いてきたのでしょうか?今の季節は南からですね。長旅お疲れさまです。この小説の続きは・・・可能であれば「珈琲舎うつわ」を訪れてみて、ご自身で想像されてみてはいかがでしょうか。そして是非こちらでも、どちらでもかまいませんので発表してください。
お待ちしています。
Posted by おいで at 2012年07月05日 21:28
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