2012年03月28日

ブラザー軒


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高田渡は人間国宝である・・・THE ALFEEの坂崎幸之助が、生前の高田渡をこう褒めたたえていた。半ば冗談だったのかもしれないが、いまとなっては当たらずとも遠からずの感がある。2005年4月16日に高田渡は天に召された。享年56歳。
生前の風体は60歳代後半くらいにしか見えなかった。過ぎるほどのアルコール摂取の影響があるのだろう。「翁」と呼ぶに相応しい風体だった。
高田渡のライブには多くの逸話が残されている。べろんべろんに酔っ払ってステージ上で寝る、嘔吐する、当然演奏にならない・・・それこそ数限りない事件があったようだ。「タカダワタル的」(DVD)では、そんな彼の姿を垣間見ることが出来る。高田渡をサポートしていた佐久間順平によると「渡のライブは、その先どうなるかわからない出来事の連続」だった・・・と。

このアルバムは亡くなった翌年、2006年4月に発表された。2003年3月27日にNHK−FMの「LIVE BEAT」という番組で公開録音された音源が、ほぼノーカットで収録されている。息子の高田漣と二人だけのライブで、どれも聴き慣れた曲である。意外なことに、どの曲もギターのピッキングは、ちゃんとしている。つまり「まとも」に演奏しているのである。もちろん収録の途中で、些細な(?)事件は起きるのだけれど・・・。

さて、このアルバムの曲中、胸にぐっと来るのは「ブラザー軒」である。

 「ブラザー軒」
東一番丁ブラザー軒
硝子簾(のれん)がキラキラ波うち
あたりいちめん
氷を噛む音

死んだおやじが入って来る
死んだ妹をつれて
氷水喰べに
ぼくのわきへ

色あせたメリンスの着物
おできいっぱいつけた妹
ミルクセーキの音に
びっくりしながら

細い脛だして
細い脛だして
椅子にずり上がる
椅子にずり上がる

外は濃紺色のたなばたの夜
肥ったおやじは小さい妹をながめ
満足気に氷を噛み
ひげを拭く

妹は匙ですくう
白い氷のかけら
ぼくも噛む
白い氷のかけら

ふたりには声がない
ふたりにはぼくが見えない
おやじはひげを拭く
妹は氷をこぼす

簾はキラキラ
風鈴の音
あたりいちめん
氷を噛む音

死者ふたり、つれだって帰る
ぼくの前を
小さい妹がさきに立ち
おやじはゆったりと

ふたりには声がない
ふたりには声がない
ふたりにはぼくが見えない
ふたりにはぼくが見えない

東一番丁、ブラザー軒
たなばたの夜
キラキラ波うつ
硝子簾の、向うの闇に

七夕の夜、久しぶりに思い出の店「ブラザー軒」に入る。天の川では彦星と織姫が一年ぶりの再会を果している頃、硝子簾の闇に死んだ父と、まだ幼かった妹の姿を見る。あの世とこの世が通じるわずかな時間、死者は、その姿をはっきりと、まるで生きていた頃と同じように見せてくれた。それは幻なのか現実なのか。それはどうでもいいことなのだ。男は自分の手をじっと見つめる。いつの間にか死んだ親父と同じ歳になっていた。
また来年、ここで二人と会えるだろうか?そんなことを思いつつ再び硝子簾に目をやると、二人の姿はなく、自分の姿だけが映っている。

歌詞は宮城県出身の詩人・菅原克己。「ブラザー軒」は実在するレストラン。

高田渡が向こうに行って早7年近くが経つ。七夕の夜、ブラザー軒に行ってみようかな。
posted by 生出 at 21:55 | Comment(0) | 音楽
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