
淹れたての珈琲から、ほのかに湯気がたちのぼる。
カウンター席に座り、窓から行き交う車や人を、ぼ〜っとしながら眺めるのが好きだ。
小雪がちらつく寒い日、中年のサラリーマンはコートの襟を立て先を急ぐ。老人は背中を丸め、うつむきながら歩を進める。バス停にたむろする高校生は寒さ知らず。
バスが到着すると、どっと人が吐き出される。誰もが寒風に身構えて、それぞれの目的地へと向かう。
その中に見覚えのある後姿を見かけた。窓から見える範囲は限られているから、すぐにそのひとの姿は見えなくなってしまった。
器に目を戻すと、たちのぼった湯気のせいか、目の前が潤んで見えた。