いまでこそ違和感はないものの、T90が発表された1986年、見た瞬間に「なんじゃぁ〜こりゃあ〜」とGパン刑事のように思わず叫んでしまった僕である。カメラロボットA−1の発表から数えること8年、見たこともないボディデザイン、数々のオート機能てんこ盛りのスペックに、電流のごとく衝撃が体中に走ったのを覚えている。ちなみにT90のキャッチコピーは「超性能一眼」だった。

前年1985年にはミノルタα7000が登場し、35ミリ一眼レフはオートフォーカス時代に突入したわけだが、当時のキヤノンの答えが、このT90だったのだ。すでに多くのプロ、アマから支持を集めていたキヤノンではあったが、僕の予想とは裏腹にこの新人君は、すんなりと受け入れられた。
見た目のイメージを上回る性能の良さ・・・握りやすいグリップ、直感的なダイヤル操作による露出設定、単三4本で駆動する燃費の良さ等々・・・は好みはあろうが撮影する道具として、いまでも完成度の高いカメラであるといえると思う。フラッグシップ機「NewF−1」から買い換えるプロもいたと聞いた。ちなみに第三回「カメラグランプリ大賞」を受賞している。

工業デザイナー「ルイジ・コラーニ」による斬新なデザインは、その後のEOSシリーズに受け継がれ今日に至っている。中身に関してもEOSシリーズへの布石としてT90は重要な役割を果たしたのである。キヤノンがFDを捨て、EFという新路線を歩み始めたことに「裏切られた」と見るユーザーがいたことも事実ではあるが、T90の翌年にはEOSシリーズの第一弾として650が発表され、新たなる本流がここに生まれたのだ。いまやデジカメ界を牽引するEOSシリーズ、その方向性を導いたのが、Tシリーズのフラッグシップ機T90だった。