国土の7割が山の日本。当然のことながら、ちょっと車で遠出をすると峠を超えなければならない。とくに山に囲まれた盆地に住んでいれば尚更のこと。僕自身、よく通るのが土湯峠、旧滝沢峠、博士峠、中山峠、氷玉峠、駒止峠、甲子峠・・・他にいくつもの峠を走ってきた。
そんな中でも好きなのが、この「かもしか峠」である。峠といっても車で走れば距離はぜんぜん大したことはない。眺望だってよくはない。しかしこの手書きの看板に何故か惹かれるのである。手書きだということは当局ではなく、峠の上にある集落の住人が名付け、看板を設置したのだろう。集落と下の町を結ぶ道は、これまで幾度か災害によって崩れ、ルートを変えたこともあったようだ。
ようやく現在のルートになってからは、集落が孤立するような災害は多少は少なくなった。かつてはカモシカが通るような険しかった道も車が通れるようになり、きっと住人たちも安堵したことだろう。これで町との行き来も「普通になった」と。完成した「かもしか峠」を通ることなく逝った先人たちの苦労を思い、作ったのが、この看板なのかもしれない。